マーケティングを生業にするものとしては絶対読んでおいて損はありません。
『ネスレの稼ぐ仕組み』(高岡浩三著、KADOKAWA)
著者はネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOの高岡浩三社長兼CEO。同社入社以来、「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させるなど数々の優良実績を樹立。それ以降も積極的に、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築しています。
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わたしは書籍、webニュース、Newspicks等で高岡社長が発信される言葉を積極的に追いかけていますが、高岡社長の考え方は根っからのマーケティング思考でいつも先き行く大変お手本になります。ネスレ日本はグローバルで見てもは圧倒的に業績が良く、その手腕がゆえに海外の講演にも度々招かれていいますよね。先日行われたワールド・マーケティング・サミット・ジャパン2015でも現代マーケティングの父にフィリップ・コトラー氏に招かれ講演していることからもその実力・センスたるや凄まじいことが分かります。こんな優良企業ですから多くの代理店や制作会社がネスレ日本との取引を希望し、身を削るやり方をとってでも実績を作りたがるといった取引も行われているとか。
本書では高岡社長が創りだした実績に基づき、企業にとって不可欠な「稼ぐ仕組み」について考えています。これは【マーケティング】ともいい換えられ、次のようになるとなると言っています。
顧客の問題を発見する
↓
問題を解決(ソリューション)する
↓
それによって、新たな価値を創造する
(「はじめに」より)
ここで非常に難しいのが、「顧客の捉え方」と「問題の捉え方」。高岡社長はこの二つの要素について深く考え考察することが、現代におけるマーケティングイノベーションに繋がると述べています。顧客はいったい誰なのかどこにいるのか。これを抜きにして稼ぐ仕組み作り(マーケティング)は出来ないというわけです。現代社会においては、顧客が抱える問題も多岐にわたっています。しかしながら問題なのは、いまだに性別や年齢、あるいは職業など「伝統的な指標(デモグラフィック)」で顧客を分類し、特定の層をターゲットにしたマーケティングが行われているという事実。
一方で、顧客の範囲を狭くしてしまうとマーケティングの範囲が狭くなるため稼ぐ仕組みが限定的になってしまうとも考えているようです。この点については、「特定の層をターゲットにするという考え方自体が古く、現代のマーケティングにマッチしていない」というのが高岡社長の考え方。本書内ではこのことを、自動車に置き換えて説明しているのですが、これがまた分かり易い事例なので抜粋にてご紹介しておきます。
車の顧客をあらゆる視点からとらえるグーグルのような企業は、21世紀型企業と呼ぶことができます。自動運転車が誕生した背景には、20世紀型企業と21世紀型企業の違いが如実に表れている事実があると私は考えます。(31ページより)
トヨタ自動車等の自動車メーカーが顧客として捉えているは、「運転免許を持っていて」「車を買う条件が揃っていて」「そのうえで車を欲しがっている人」。そうすると、重要なのは車のデザインや性能になりますので、メーカーや販売会社はそこに絞って開発や販売を行います(=従来の自動車メーカーの稼ぐ仕組み)。
これに対し、まったく違った発想をしているのが、自動車メーカーではないGoogle。「免許を持っていない人」、「運転したくないと思っている人」を顧客としてとらえているということです。ここで重要なのは、そうした顧客をターゲットにした場合、車のデザインや性能はあまり意味を持たなくなるということ。これを起点に考えると「免許を持っていなくて運転もしたくない人」ですら車を運転できるという視点が生まれます。そこから「ドライバーを必要としない自動運転車」という発想につながっていったのだろうと高岡社長は推測されています。
このケーススタディについては「ははーん。なるほど。」という感想につきます。さらに「車が売れない」と言われる日本でもこれまでに無いおもしろい動きが出てきていることにも注目されています。車を買うまでには至らない人たちを顧客として認識すれば、彼らの問題を解決するところにイノベーションが生まれるという考え方で、そのひとつが、維持費などの問題をクリアにしてくれる「カーシェアリング」というモデル。顧客の捉え方とその問題定義によって稼ぐ仕組みが構築されることがとても良くわかります。非常に鋭い考察力です。
そしていま、マーケティングは新たな段階に移ろうとしていると高岡社長はいいます。それが、2014年秋にコトラー氏が提唱した「マーケティング4.0」という考え方。そのポイントは、顧客にとっての「自己実現」とのことです。顧客の問題解決からさらに一歩進め、「問題解決によって生まれた価値が、顧客の自己実現につながるようなマーケティング」こそが、これからの主流になると説いています。
コトラー氏がマーケティング4.0を考案するときにベースとした事例のひとつが、ネスレが2012年から展開している「ネスカフェ アンバサダー」というビジネスモデル。コーヒーマシンをオフィスに無料で提供し、淹れたてのコーヒーを安価で飲めるようにした仕組み。アンバサダーと呼ばれる取りまとめ役を置くことで、アンバサダーがコーヒーの粉を購入し、飲んだ人から代金を集めるというものです。
結果的に大成功したわけですが、ネスレはマーケティング4.0を意識してこれをはじめたわけではないのだと高岡社長はいいます。どちらかというと、顧客の問題解決によって価値を生み出そうとしたマーケティング3.0に近かったとか。
※マーケティング1.0、2.0、3.0、4,0についてはコチラも参照下さい。
消費者調査でわかるようなことは誰でもできます。そんなところからイノベーションが生まれるとは思えません。だからこそ、顧客が気づいていない問題を解決することを真剣に考えていかなければならないということなのです。(45ページより)
この結果として、「顧客にとってより高い価値となる自己実現」というステージに到達できたのだということ。わたし自身も仮説に乏しい消費者調査はまったくやる意味が無いと思います。そんなことを使わずしても気付いていないことを探しあてれば稼ぐ仕組みになる。そう説明されているように感じました。
これから発展していく新興国でマーケティング4.0を展開しても意味が無く、マーケットが成熟した日本のような先進国こそこのような先進的な考え方が必要だといいいます。言い換えればこうしないと稼ぐことも利益率も上がらないということですね。
本のご紹介はこの辺にしておきましょうかね。マーケティングのこれからを見つめる非常に良い機会を提供してくれます。改めてにはなりますが、マーケティングを生業にしている方は是非読んでみてください。稼ぐ仕組みを体系的に理解できるはずです。もっと言うと、解説が平易なので新入社員もっというとマーケティングを知らなくとも分かる内容になっています。
ちなみに、高岡社長の著書「ゲームのルールを変えろ」も必読書ですよ。
ではでは。
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